SEの証券アナリスト挑戦記

この挑戦記はシステム開発会社に勤務するシステムエンジニア(SE)の私がふとしたことから証券アナリストの資格取得を志し、希望と不安を抱えながら、5年の歳月を経てようやく取得に至るまでの体験記です。これから似たような立場の人が挑戦されるときに少しでも参考になればと思い書くことにしました。

1.思い立ってしまった

 SEとして投資顧問会社のシステムを担当していた私は、情報処理技術者資格の取得も一息つき、上司の影響もあって中小企業診断士へチャレンジし始めたところでした。そんなとき担当先のシステム部の人が証券アナリストなるものを取得したと聞き、私は初めてきくその資格についていろいろと尋ねました。

 どうやら金融業界、中でも資産運用の世界では最も有名で認知度の高い資格であること、FMやアナリストなどにとっては持っていて当たり前のようなものであること、などがわかりました。

 中小企業診断士の勉強内容になんとなく疑問を抱いていた私は、その対象の明確さと業界での認知度から、今後この業界のシステム屋としてやっていく上で営業面でも実務面でも役に立つに違いない、と証券アナリストの取得に気持ちを切り替えました。それは同時に、予想以上の長期に及ぶチャレンジの始まりでもありました。


2.無駄な準備?

 試験についてちょっと調べてみると財務分析なる科目があり、貸借対照表が目に止まりました。私は簿記の勉強はまともにしたことがありません。通信講座が始まるまでに時間があったので、とりあえず下準備として簿記3級のテキストを手に入れ一通り読みました。でも後に通信講座を受ける中で、アナリスト試験に関わってくるのは仕訳の基本的な考え方と資産?負債?資本の基本的な分類程度であることが判りました。思えば身近に取得者がいない異業種からの挑戦の不利はすでにここから始まっていました。


3.いざ挑戦開始

というわけで、試験のことはよくわからないまま通信講座がスタートしました。とりあえず毎月送られてくる教材をこつこつ繰り返し読みました。添削問題もあり遅れながらもなんとかこなしていきました。わからなくて何も書けずに提出した問題もあります。

 

 3科目の中ではポートフォリオ分析、財務分析、経済の順で多くの時間を掛けました。講座の教材中心で参考図書もあまり開いた記憶がありません。

 

 講座のテキストはわからない所は何度も読み返しました。また途中から自分用のまとめノート(自分ノート)も作っていきました。これは問題を解いて間違えた個所などで自分の理解の浅い部分を抜き出して書いていったものです。勉強の区切りのいい時にこのノートは読み返すようにしました。

 

 そんな私の勉強時間は主に通勤電車の中でした。私は家の中の様々な誘惑に負けてしまう方なので他の試験でもそうしていました。週末は基本的に勉強もお休み。週末1回集中的に長時間やるよりも平日5日に分散してやる方が頭に残ると思います。

 とはいえ途中、ノート作りを始めてからは電車の中での作業はなかなか難しいため週末に図書館に通うようになりました。そこからは平日はテキストや問題に向い、週末は分からなかったところをノートにまとめる、というローテーションになりました。


4.はじめての挑戦

 最初の試験は全3科目を同時受験しました。受けるからには一発クリアを狙っていましたが、経済だけを落とす結果となりました。この1科目のためにもう1年(今は制度が変わり半年ですが)1次課程にとどまらなくてはならなくなりました。


5.つかみどころのない「経済」

 人によっては他の2科目が受かってなぜ経済を落とすんだ?と思われる方もいるかもしれません。(実際そう言った人がいました)中には大した勉強もせず受かる人もいるでしょう。

 

 私にとって経済は勉強のしどころがよくわからない教科でした。1発でクリアした人のなかにもこれに共感してくれる人はいるかもしれません。

 そこで私は初めて市販のテキストに手を伸ばし、そこでようやく出題範囲や傾向が見えてきました。それからは市販の本や参考書、問題集を使って、経済のためだけでは十分すぎるほどの時間を使い、万全の状態で次の試験を受けました。そしてようやく3科目目をクリアできました。


6.さあ、2次だ

 2次では職業倫理が加わり、かつ試験は4科目の総合問題となります。1次のような科目毎の合格はありません。つまり通るか通らないか二つに一つとなります。

 

 2次の講座が始まった当初、私は1次と同じように、講座のテキストを勉強のベースに考えていました。ところがこれがとても難解で何度読んでも理解できません。もともとテキストは課題図書を前提としたものなのでしょうがテキストだけで理解できていた1次のときとは全く違うレベルでした。課題図書を一から読む時間はなくまたたとえ読んでもそれだけではテキストの内容が理解できないように感じました。

 

 困った私は客先の最近合格した人にこの疑問をぶつけてみました。するとその人は、「テキストは全く読んでない。とにかく市販の問題集を何度も何度も繰り返し解いた。」と言って使用した問題集を教えてくれました。とはいえいきなり問題に取組むほどの知識が自分にはないと思ったことと、まずは全体を一通り学んでから問題に進みたい私の性分もあり、市販のテキスト+問題集を使う形で勉強を再開しました。

 

 また自分ノートは2次の膨大な内容で作るのは時間が掛かり試験に間に合わないと判断し、市販テキストに書き込みし付せんを張ることで代用しようと考えました。

 そんなこんなであっという間に最初の試験がやってきました。


7.不合格通知

 全てのテキストと問題集を1回ずつこなすこと(1クール)さえ終わっていない状態で最初の試験を受けました。私自身も受かるわけがないと、場なれのつもりで受けました。結果は当然のごとく不合格。その後自分ノートはやはり必要と考え作り始めましたが未完成の状態で2度目の試験を迎え合格の可能性の低さを十分感じながら受験。当然またまた不合格となり悲惨な結果を積み重ねることになりました。そしていつになったら受かるんだろうと先の見えなさを徐々に強く感じるようになっていきました。


8.1次と2次のレベルの差

 2次は各科目とも(少なくとも私が力を入れたポートフォリオ分析と財務分析は)1次より明らかに難易度が上がっていました。テキストを1回読み直す毎に、問題集を1回解き直す毎に、理解できたと思っていた箇所で新たな疑問が生まれました。それを調べ解決させる度に2次の深さと自分の理解の甘さを感じました。


9.自分ノート

 

 自分ノートの製作は2次の準備の中で最も時間が掛かるものとなりました。1次で作った感じから2次の内容では相当な時間が掛かるだろうと作り始める前から判っていました。だからこそこれを避けるため付箋をテキストに張ってその代用にしようとやってみましたがとても使いにくいものになってしまいました。そして結局自分ノートを作ることにしました。このため毎週土曜日は図書館通いの日となりました。一通り作るのに(といっても経済は作ってませんが)1年位掛かったと思います。が、読み返したり並行して問題を解いていると、書いた時には十分理解したつもりの個所が全然浅いものだったと判ることが頻繁にありその度にノートに手を加え完成度を高めていきました。

 

 ノート作りにはパソコンを使いました。1次では手書きでしたが、手書きでは内容の追記や変更を重ねるととても読みにくいものになるため長丁場の今回はパソコンの方が便利と考えました。手書きの方が特に図を書いたりするのが早いので迷いましたが後のことを考えパソコンを選びました。パソコンを使うとなるとそれを持っている時でなければ当然書くことはできません。手書きより作るタイミングや場所は限られます。毎週図書館に通い出したのもこれが理由でした。

結局図書館通いは2年におよびましたが、内容が充実していくノートは広い試験範囲を効率よく復習するために必要不可欠なものとなりました。


10.やっぱりつかみどころのない「経済」

 1次に続き、2次の経済もつかみどころがありませんでした。時間を掛けても他の2+1科目のように見返りが増えるようには思えませんでした。また試験でも時間的に全部やる時間はないため経済は一番後回しにしました。結局経済については最後までまともな勉強はしませんでした。


11.直前対策

 試験準備を積み重ねていくと大分力が付いたなぁと感じつつもそれ以上にそこ知れない理解不足が分かってきて、正直延々とこの勉強生活が続くのかもしれないという不安が大きくなっていきました。それでも折角ここまで来たのでもう一踏ん張りしようと思いました。そして遂に、次で落ちると再受講という試験になりました。再受講となればお金が掛かります。決して安くはありません。

 

 この節目の試験を約1ヶ月後に控え、受かるためにどうすべきか考えました。それまで私は日常の勉強の延長線上に試験を置くことを変えてこなかったため、受かるためだけの一夜漬け的な直前対策は取ってきませんでした。(そこまでレベルが届いていなかったとも言えますが)しかし今回は受かるためにやれるだけのことはやろうと考えました。そして主要2科目の問題集を残り1ヶ月の間にもう一回全部やろうと決めました。そのためには毎日1~2時間は時間を確保しなくてはなりません。通勤中だけでは時間が足りないため帰宅途中にファーストフードなどに立ち寄るようになりました。残業も抑え気味にしました。

 

 問題を解く順番も工夫しました。1冊ずつページ順に解くのではなく、2冊並行して取り組み、各章を2、3問ずつ解いていき、全ての章の消化率のペースを合わせるように進めました。こうすることで試験の時に全体に渡ってよく覚えていられるようにしました。

そして記憶をキープするのにとても役立ったのが自分ノートでした。ラスト1ヶ月の間何度も弱点総復習を繰り返させてくれた欠かせないツールとなりました。自分ノートはラスト1ヶ月の間にもいろいろと書き込まれ最後の最後までその役割を高めていきました。


12.桜が咲いた

 節目の試験が終わっても私は図書館に通い続けました。受けた感触があまり良くなく間違えた個所ばかり思い付きました。これまでの試験の中では最もマシな成績だろうとは思ったもののおそらく落ちているだろうと思っていたため次の試験に向けて勉強を続けていました。そんな中で合格通知がいきなり届きました。驚きと嬉しさと安堵感とともに長かった勉強生活がやっと終わりました。


その他に大事なこと

 事前1ヶ月に時間を多くとるトータルで掛ける準備時間もはかなりの量が必要ですが、範囲が広いことから直前の短時間に集中して復習し記憶がフレッシュな状態で試験に臨むことが大事だと思います。

 

 

 

行為基準

 

これに関する対策は十分とっておくことをお勧めします。主要3科目に比べれば難易度は低いにもかかわらず必ず午後に2問出題されるため確実に点を稼いで取りこぼしがないようにしたいところです。またここでの点が余りにも悪いと他がいくら良くても合格できないことになっています。そういう意味でも舐めてかかるとろくなことになりません。行為基準は一見簡単そうですがたとえ解説を読んでも微妙な解釈に悩む箇所が少なからずあります。加えてテキストや問題集の種類はあまり多くなく理解を深めるためのツールは少ないです。協会から送られて来るテキストの役割は大きいです。このような中、私はできるだけいろいろな説明を見つけるように努めポイントを整理していきました。

 

 

 

試験は時間との戦い

 

午前・午後3時間半ずつの計7時間という時間は一見長いように見えますが実際にはあっという間に過ぎていきます。問題の量から考えればとても短い時間です。時間配分に十分気を付ける必要があります。問題の冒頭に各問への配点が示されていますので私はその配点比率を参考におおよその時間配分を決めていました。

 

とはいえあの忙しさは事前に経験しておくに越したことはありません。最初からどの程度スピードをあげて試験に入るべきか分かっていないと、本当は解けたはずの問題に結局手が回らなかったという事態になりかねません。そのために是非試験前に過去問などを使ってタイムトライアルされることをお勧めします。

 

 ちなみに本番では時計は必ず持参してください。特に携帯を普段時計代わりに使用している方は、携帯をしまうように試験官に指示されるとアウトなので忘れないようにお気をつけください。なお、会場に時計があるとは限りません。あっても自分の席から見にくいこともあります。時間配分の要である時計で当日苦労しないようにしましょう。

 

 

 

電卓と数値に慣れる

 

 電卓、その中でも関数電卓が必須であることは言うまでもありませんが、その使い方には十分慣れておくほうがいいでしょう。ただでさえ時間が足りない中で電卓の使い方に自信がないのはハンデになります。私は面倒ではありましたが残り1ヶ月の間は電車の中でも電卓を取り出して使うようにしていました。

 特に他業種からの挑戦者にとって電卓を使って最後の数値を導き出すということは重要です。なぜなら解き方をいくら覚えても実際に出した答えがケアレスミスなどのつまらない理由によって間違えてしまうことはよくあることです。出て来た答えの数値が妥当性のあるものかどうか、たとえば1桁単純にずれてしまっていた場合、その道のプロならば一目でその異常に気がつくでしょう。でも普段数値に触れる機会が少ない異業種の人はそれに気がつきにくいものです。検算する時間も惜しい本番ではこの差は大きいです。このため普段から実際に計算するよう心掛けることが大切です。


以上、受験する方の参考になれば幸いです。



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